好きな場所で借りて好きな場所で返す、自転車のように気軽に使えるカーシェアの新形態。車の所有から利用へ、社会の変革に呼応するカービジネスを構築する

株式会社LOMA

好きな場所で借りて好きな場所で返す——福岡発のスタートアップ・株式会社LOMAは2021年5月より、カーシェアサービスの新形態「LOMACA」の実証実験を福岡市内でスタートした。サービス設計上のボトルネックになっていた“キー問題”を解決したのが、TOKAI RIKA Digitalkey「FREEKEY for CAR」(以下、Digitalkey)だ。 Digitalkey採用によって向上したサービスの価値について、LOMA代表取締役の中川善智氏に伺った。

抱えていた課題

  • ・ユーザーがレンタカーを借用・返却する際に鍵の受け渡しは対面が必須条件になる
  • ・既存のデジタルキーは車の改造・復元に手間とコストがかかる
  • ・デジタルキーを導入した際の動作の安定性が懸念される

導入理由

  • ・デジタルキーの導入により非対面での車両の受け渡しを実現する
  • ・車両を改造せずにデジタルキーを搭載する
  • ・BLE通信によってデジタルキーの動作の安定性を担保する

期待する効果

  • ・車両改造コストや人件費を削減し効率的な事業運営を実現する
  • ・コロナ禍における完全非対面を実現しより安全な利用と感染防止に貢献する

非対面受け渡しでレンタカー利用の自由度が拡大し、かつ車両改造が不要

株式会社LOMA
代表取締役 中川 善智 氏

自動車利用の概念を変える新サービスへ

社長には、“クルマ”の神様がついている——。

「従業員にはそんなふうに言われています」と笑う株式会社LOMA代表取締役 中川善智氏。2000年に株式会社誠善を創業し、今でこそ多くの自動車保険会社が取り入れているロードサービスをいち早く展開。また、トラック1台から始めたリース事業は航空機まで手がけるほどに拡大した。

さらに自動車のメンテナンスやレンタカー事業、物流事業など、多角的に事業を展開している。さまざまな事業を手がける中でも、とりわけ“クルマ”のこととなるとビジネスの流れがよくなるのだそうだ。10代の頃から車いじりに夢中だったという中川氏の、自動車ビジネスにかける情熱を神様が後押ししているのだろう。

 

そんな中川氏によって2020年に新たに設立された会社が、株式会社LOMAだ。従来のレンタカー業とカーシェア業のハイブリットともいえる新しいカービジネスに挑戦する。

「生活者の価値観は、車の“所有”から車の“利用”へと変わりつつあります。つまり、車を持っていること自体に価値をおかず、使いたいときにだけ便利に使えるサービスを求めているんです。近年カーシェアやMaaSなど、車をいかに “利用”するかの仕組みが急速に発展していますが、私たちはさらに便利に、日常的に活用してもらえるカービジネスを提案します」

車両の改造を行わずに設置できるデジタルキーを模索

「好きな場所で借りて、好きな場所で返す」をコンセプトに掲げる「LOMACA」は、商圏を半径5キロ以内に絞ったサービスだ。注文後30分以内に希望の場所にスタッフが車を届け、ユーザーは利用後、福岡市内のどこに乗り捨てても構わない。

従来のレンタカーのように、店舗まで車を取りに出向き、利用後に返却する必要はなく、またカーシェアのように個人間の鍵の受け渡しの調整も不要だ。さらに車両の清掃、除菌、点検などはきちんと管理されている。

 

 

このサービスを実現するにあたってまず採用した技術のひとつが、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供する無線通信サービス「ELTRES」である。同サービスでは位置情報によってかなり精緻に駐車位置を割り出せる。スタッフはこの情報に基づいて、乗り捨てられた車両の回収に向かう。

「ELTRES」の導入によって乗り捨てられた車両の回収がスムーズとなり、車両の受け渡しに関しては格段に自由度が向上した。

しかしこの事業構想を実現するにあたりボトルネックとなったのが、車の鍵の問題だった。

例えば従来のレンタカーや個人間カーシェアの場合、対面で物理鍵を渡す必要がある。一方で大手カーシェアのようにNFCを取り付けることで非対面を実現しているサービスもあるが、一般的には車両や鍵に改造を加える必要がある。

しかし、LOMACAは車の一定期間使用後、車を売却するビジネスモデルを想定している。車両改造した車は資産価値が損なわれ、売却の際に高く売れない懸念がある。車両改造は行わずに鍵の問題をクリアできないか——中川氏は、システムを手がける企業に問い合わせをし、現物を取り寄せすべて試してみたがいずれも目指す水準には至らなかった。

「10以上ある他社のシステムを一つひとつ検討しました。しかし他社のシステムだと鍵の改造に数ヶ月を要し、また通信が不安定な場所では動作が不安定で、車の鍵としての安定感に欠けるという課題がどうしても残ります。カーシェアにおいて、車の鍵はセキュリティに関わる最も重要な要素ですから、妥協はできません」

他社のシステムがいずれも採用できない中、自社で解決すべくトライもした。自動車事業を経営する中川氏にとって、車両の改造はお手のものだからだ。しかしやはり壁は高かった。

「まず作ってみたのが、鍵を自分たちが設定したリモコンで開けるようにした親子リモコンです。しかしこれ、結局リモコンをユーザーに渡さないといけないから意味ないんです。一生懸命作ったのに後から気づいて……。さらに考えて、今度はWi-Fi経由で鍵の開閉ができるようにしたらどうかと。これには成功したのですが、Wi-Fiがない場所では使えないため実用には到底至りませんでした。とうとう行き詰まってしまいまして、何かいい方法はないかとソニーの担当者に相談したんです。そこで紹介してもらったのが、東海理化さんでした」

Digitalkeyはキーを収納したボックスをトランクや助手席などのスペースに設置するだけで、車両の改造・取付工事も必要ない。そのボックスの中のキーをスマートフォンで制御し、車のドアを開閉させるのがこのシステムだ。しかも、この制御システムはBLE(※1)通信のため、インターネットが使用できないオフライン環境でも鍵操作が可能である。

左「FREEKEY BOX」への収納イメージ、中央:FREEKEY Boxの車内への設置イメージ、右:スマートフォンアプリで鍵の施錠/開錠を行うイメージ

自分たちでも手を動かしながら模索し続けてきただけに、ソリューションのシンプルさに中川氏は思わず膝を打ったという。

「車両を改造して鍵のセキュリティ情報を制御して……と、私たちも他のレンタカー事業者も、手をかけていろんな改造をしてきたわけです。それが、車の中に箱を置いて、その中に鍵を入れておくだけ?なるほど、と拍子抜けしました(笑)。

東海理化はトヨタのスマートキーを開発した会社。鍵のセキュリティを極限まで上げて最高の品質のものをつくっています。その一方で、不特定多数のユーザーに対して鍵を利用する権限を持たせるというハードルを、こんなに単純な仕組みで越えてしまう。それを一つの会社の中でやっていることに感銘を受けました」

現在は予約管理とデジタルキーの操作は別のアプリで行っているが、本格運用に向けDigitalkey のAPI※2とSDK※3を「LOMACA」アプリへ組み込む予定だ。大規模なシステム開発を要することなく、BLE通信による車載スマートデバイス操作機能、鍵の権限管理機能、各種ログデータとの連携が「LOMACA」の管理システム上で可能となる。これにより、サービスユーザーは別のアプリをダウンロードする必要なく、「LOMACA」アプリより直接、鍵の解錠/施錠を行えるようになる。

※1 BLE(Bluetooth Low Energy):電子機器などに使われる低消費電力の無線通信技術。
※2 API(Application Programming Interface):外部のアプリケーションとシステム連携をするための機能のこと。本件ではサービスユーザーのスマートフォンにデジタルキーを配信するために、LOMACAサーバーとTOKAI RIKA Digitalkeyのサーバーを連携させるための機能を指す。
※3 SDK(Software Development Kit):ソフトウェアを開発するために必要なプログラムや文書などをひとまとめにしたパッケージのこと。本件ではスマートフォン上のLOMACAアプリでデジタルキーの操作を可能にするためのプログラムのことを指す。

コロナ禍で新たなニーズが高まる

LOMACAの車両は2021年7月末で70台を突破。常時稼働しており、時によっては1台も残っていない場合もあるという。

既存のレンタカー店はコロナ禍での旅行者の減少を受け、業績の伸び悩みが発生している。一方、LOMACAは商圏を拠点から半径5キロ以内に絞ることで、周辺住民の需要の掘り起こしに成功した。

「コロナ禍では旅行もできなくなり、ネット通販を利用するため買い物でのレンタカー利用も激減しました。そんな中でもLOMACAの利用は伸びています。時間や場所の制約がずっと小さくなったことで、自転車のような気楽さで利用していただいているようです。

どんな用途で利用されているのかお客さまの声を聞いてみると、せめてもの気晴らしにと海までドライブに行く、電車など人の多い交通手段を避けて車で移動するなど、日常生活での利用が大きく増えています。

また、高齢のお客さまからは『店舗まで足を伸ばせずレンタカーは利用できなかったがLOMACAなら自宅近くまで車を持ってきてくれるので利用できた。おかげで孫に会いに行けた』といった声もいただきました」

ユーザーメリットだけでなく、事業者側のメリットも大きい。車両の改造が不要になったことで改造コストや車両売却時の復元コストが削減された。また、レンタカー事業のように店舗にスタッフを常駐させる必要がないため、人件費の半減が達成されるなどの効果もあった。

都市部を中心に全国展開へ

 

2021年8月現在、LOMACAは福岡市内限定で実証実験を行っている。2022年3月期には200台まで稼働を増やす計画で、サービスの成長は順調だ。今後は車の所有維持コストが高い政令指定都市を中心にレンタカー会社・自動車ディラー・中古車販売店との協業も進め、2027年までに500拠点、250億円の事業拡大を目指している。

「車にまつわる社会変革は急激に加速しています。自動運転が普及すれば、LOMACAにおいても車両のデリバリースタッフが不要になり、ユーザーが自分で運転する必要もなくなります。もう、車という概念すらもなくなって、ただの移動するための箱という存在になるのかもしれない。その未来はもう遠いものではありません。

私たちはその未来に備えて、LOMACAというサービスを進化させていかなければなりません。進化とは力の結集です。NASAのアポロ計画は人類が月に行くという壮大な目標を設定してプロジェクトの内容を細分化し、分野別に世界の一番優れた技術を持ち寄って、月に行こうとしていました。私たちLOMAも、ソニーや東海理化といった優れた技術をもつ企業と協業し、新しい価値を生み出していきます」

車の所有から利用へ。変革していく社会に呼応した新しいカーサービスの実現を目指し、“クルマの神様”に見守られながら、LOMAの挑戦は続く。

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企業情報

社名:
株式会社LOMA
事業内容:

カーシェアリングサービス “LOMACA “のサービスプラットフォーム開発とサービス運営

設立:
2020年3月3日
URL:
https://www.loma.jp/

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