同一テナントビル内での企業間カーシェアリングにデジタルキーを活用。低コストで快適な社用車活用の新サービスに向けて実証実験を開始

住友商事株式会社

2021年6月、住友商事株式会社のモビリティ事業開発組織「Beyond Mobility事業部」は、福岡市内における同一テナントビル内での企業間カーシェアリングサービスの実証実験を開始した。TOKAI RIKA Digitalkey「FREEKEY for CAR」(以下、Digitalkey)の導入と、アプリと連動した予約システムの開発を併せて行った。Digitalkey によって生まれた利便性と、新規事業立ち上げにおける三者間のパートナーシップ構築について、Beyond Mobility事業部の安藤和将氏に伺った。

抱えていた課題

  • ・車の物理鍵は異なる企業間での管理や受け渡しに課題がある
  • ・事業フローの設計途上であり、幅広い車両に使えるデジタルキー技術が必要である
  • ・実証実験段階でもサービスの信頼性を損なわない品質が求められる

導入理由

  • ・車両の種類に依存しない汎用性の高いデジタルキーシステムである
  • ・長く自動車のハードウェア製造に携わってきた東海理化のクオリティは信頼できる
  • ・ゼロからの事業開発に対してシステムの開発などのサポーティブな体制がある

期待する効果

  • ・軽微な修正や不具合の解消を進めながらトラブル対応のノウハウを蓄積する
  • ・パートナー企業それぞれの知見を結集してより良いサービス構築へ繋げる

異なる企業間での鍵の管理問題が一挙に解決。関係各社がチームとして知見を結集しサービス構築

住友商事株式会社 Beyond Mobility事業部
安藤和将氏

創業100年の総合商社がゼロから取り組む新規モビリティ事業開発

2019年に100周年を迎えた住友商事。長い歴史をもつ国内最大規模の総合商社で、新たな試みが始まっている。

同社ではこれからの100年に向け、国内外で築いてきた幅広いビジネス基盤を活かして収益の柱を強化。一方で、社会の変化を先取りした新しい価値創造への挑戦も不可欠だと成長戦略を設計している。

その挑戦のひとつとして2021年4月に創設されたのが、安藤氏が所属するBeyond Mobility事業部である。気候変動緩和や地域社会・経済の発展など社会課題の解決を見据え、近未来のモビリティのあり方を具現化する、事業開発特化型の事業部だ。意思決定のスピードを重視し、商材ごとに部門が細分化された住友商事の中でも「輸送機・建機事業部門」の直下に置かれている。

「Beyond Mobility事業部」という名称には、モビリティ事業に「Beyond」、つまり異業種の領域を超越して掛け合わせるという意が込められている。社内の他部門、また社外のパートナーとも横断的にリソースやスキル、知見を共有しながら活動を展開していく体制が特徴だ。

Beyond Mobility事業部に立ち上げから配属された安藤氏は、大学院で自動運転の制御技術について研究し、2018年に住友商事に入社。入社時から一貫してモビリティ領域における新規事業開発に従事してきた。商材も勤務地も多種多様な総合商社にあっては、新規事業開発に特化したキャリアは異色ともいえる。

「急激に社会の変化が進み、新たな社会課題も生まれている中、ビジネスの枠組みも変革が求められています。これまではトレードや事業投資を軸としてきた総合商社ですが、ゼロから事業をつくって育てるというベンチャー的な考え方も取り入れていく必要があると考えています。

Beyond Mobility事業部は、10年、20年後の未来のあるべき姿から逆算して今必要なことを模索し、パートナー企業の皆さんと一緒にゼロから事業を立ち上げて花開かせていく部署です。このたび始まった企業間カーシェアリングの実証実験も、東海理化、そしてdotDとチームになって新しい事業を構築していく、ひとつの重要なチャレンジと位置づけられています」

企業間カーシェアリングを有償で実証開始

2021年6月から実証実験が開始されている「企業間カーシェアリング」は、個人において利用が拡大しているカーシェアやサブスクリプションのモビリティサービスを、企業で応用する新規事業である。

昨今、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの普及などの影響で社用車での移動機会が減少している。稼働率の低下した車を1社で所有するのではなく、同じビルに入居している複数の企業で共同利用することで、企業ごとの負担を低減しようというものだ。

拠点は福岡市に設定。街がコンパクトで車利用と公共交通機関利用のバランスがよく、住友商事グループの中でも拠点の多い九州の地の利を活かす。住友商事九州が実証事業者となり、同じテナントビルに入居している住友商事九州、住友三井オートサービスの2社間で1台の車両の共同利用を開始している。今後、利用企業や車両台数は順次拡大していく予定だ。

車両はグループ会社で国内No.1のオートリース事業会社・住友三井オートサービスでのリース満了車を転用。多様な社用車の活用方法の実現を目指す。

住友商事グループでは、北欧でのEVカーシェア事業などの実績はあるが、国内におけるカーシェア事業はこの企業間カーシェアリングが初めての試み。実証実験といえども本格稼働と同じ条件で行うため、今回新たにカーシェア事業実施のためのライセンスを取得した。

「実証実験ですから、必ずしもライセンスを取らなくてもできるケースもありますし、ライセンスを取得するにもそれなりの労力がかかります。しかしコンセプトの検証のために無料で利用してもらうのでは、実態を捉えることは難しいんですね。やはり有償で利用していただいて、その中でお客様がどこまで満足できたのか、どんなバリューを提供できたのかを確かめなければ実証の意味がない。過去の経験を踏まえても、ライセンス取得は不可欠でした」

住友商事、東海理化、dotDのパートナーシップがゼロからの開発を支えた

こうして事業の具体像を見据えながら開始された実証実験だが、構想が生まれたのは2020年初頭。先にも述べたように住友商事グループ内で国内カーシェア事業の実績はなく、まったくのゼロからの事業開発スタートだった。

コンセプトだけが決まっていて具体的な事業設計はすべてこれから、という中、東海理化とディスカッションを始めたのは2020年1月と、プロジェクトの初期段階だった。異なる企業間で社用車をシェアするにあたり、車のキーの管理は企画当初から課題として挙げられていた。デジタルキー技術を扱う企業をいくつかリサーチした中で、Digitalkeyに白羽の矢が立ったのには、大きく3つの理由があったと安藤氏は言う。

第一は、Digitalkeyの仕組みが車両の種類に依存しない点だ。プロジェクト立ち上げ当初で事業設計が固まっておらず、安藤氏らは自動車メーカーや車種を限定せずさまざまなトライをしていきたいと考えていた。そんな中、スマートキーであればどんな車種でも対応可能なDigitalkeyは非常に魅力的だったという。

第二は、東海理化の技術力に対する安心感だ。実証実験でハードウェアの破損や故障が起こった場合、その時点でサービス全体の信頼が損なわれる。その点、長年トヨタ自動車のハードウェア開発・製造に携わってきた東海理化の技術力には定評があり、またトラブルが起きた際のサポートが厚い点も心強いものがあった。そして第三に、ゼロから事業開発を進めるにあたって、一連のサービス開発を東海理化、およびシステム開発担当としてdotDが参画し、パートナーとしてプロジェクトを進めることができた点だ。

この実証実験では、Digitalkeyに連動するWEB予約システムの開発まで行っている。実証実験開始目標までの限られた時間の中で、WEB予約システムの機能、UIのデザイン、Digitalkeyとの連携方法などを毎週の打ち合わせを通じて議論して、一つずつ形にしていった。

 

「実証実験でのプロトタイプシステムとして真に必要な機能はなにか、ユーザーにとって使いやすいシステムになっているのか、実証実験で手掛けたいことが達成できるのか——幾つかの選択肢の中で取捨選択しながら開発を進めていく中、東海理化、dotD両社とも非常にサポーティブに検討、提案をしていただきましたし、これまでの事例なども踏まえて、逆に私たちが教えていただくようなこともたくさんありました。

キーを収納するボックスの取付や動作チェックのときにも、東海理化さんが現地に来てくださって。『このボックスはここに置きましょう』『これでは使いにくいからこうしましょう』と最後まで話し合いながら作業しました。

振り返ってみれば私たちもわがままを言いましたし、引かなかった部分もあったと思います。でもそれは自分たちの都合ではなく、ユーザーに対して良いものを届けたいから。その思いは共有できていたと感じます。立ち上げ段階から今に至るまで、フラットにチームとして取り組めたのは本当にありがたかったですね。」

事業化に向けた改善の歩みもパートナーシップの中で実現していく

2021年6月の実証実験開始から3ヶ月経った現在、ハードウェア、ソフトウェアともに大きなトラブルはなく、順調に利用は継続している。ユーザーアンケートでも、システムを一度利用すれば以降はスムーズに操作できると高評価だ。

同一テナント内の企業で車をシェアしているため、顔がまったく見えない一般的なカーシェアサービスよりも安心感があり、また「車をきれいに使おう」という意識も自然に働くという副次的な効果もある。

現在は実証実験を進めながら、課題点を一つひとつ拾い集めている段階である。法人企業特化型のカーシェアリングにおいて、個人利用の場合と異なるニーズや課題がどこにあるのかを探っている。この実証実験で得られた知見をもとに、2022年度には事業化に向けてより具体的なアクションプランを練り上げていく予定だ。その際、より良いサービスの実現にも三社のパートナーシップは重要だと考えている。

「新規事業開発では、これが正しいというゴールはありません。私たちも本当に日々悩みながら進んでいます。お客様の声もとても大切な指針になるのはもちろんですが、同じ方向を見て進んでいけるパートナー企業との関係性も、実証実験では一番大切なことなのではないかと考えています。

住友商事の事業精神の一つに、“信用・確実”というものがあります。私たちは総合商社として、世界中でさまざまなパートナーと事業展開をしていますが、誰かを裏切るようなビジネスをしたり、わざと誰かが不利益を被るような形でビジネスをしたりするのは住友商事の精神に最も反することです。信用が最も重要なビジネス基盤であるという思いを、会社も、そして私自身ももって、パートナー企業と事業を進めていきたいですね」

 

安藤氏個人は、自動車産業が身近な愛知県に育ち、大学院生時代には、システムで自動車を制御して新たな仕組みを創りだす可能性を研究してきた。住友商事への入社時にも、新たなモビリティサービスを世界に展開する仕事をしたいと希望したという。一方で、車を一度も所有したことがないという“車離れ世代”だ。

「ちょっと昔までは、1年目で車を買うというのがいわゆる商社マンステータス、なんて言われていたこともあったようですね。私は生意気にも入社時に、車なんか要りませんよって言い放って怒られたんです(笑)。

私自身が車離れしている若者世代、“所有から利用へ”という現代の消費行動を体現している人間です。だからこそというのでしょうか、もっと安全で快適な、使いたくなるようなモビリティサービスの仕組みについて模索しています。今回は法人向けのサービスですが、ほかにも旅行者や個人の生活の中での利用についても、新しい仕組みを考えていきたいですね」

大企業にあってもスタートアップの精神で、未来のモビリティサービスを育てているBeyond Mobility事業部。事業化に向けて、柔軟に、そして着実に歩を進めている。

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企業情報

社名:
住友商事株式会社
事業内容:

全世界に展開するグローバルネットワークとさまざまな産業分野における顧客・パートナーとの信頼関係をベースに、多様な商品・サービスの販売、輸出入および三国間取引、さらには国内外における事業投資など、総合力を生かした多角的な事業活動を展開しています。

設立:
1919年12月24日
URL:
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp

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